一鬼夜行
味付き半熟茹でカバオです。
妖怪に出会いました。
この世のものとは思えない雰囲気、体つき。
纏っている空気の次元が違う様に感じました。
背丈は私とそこまで違わない、
むしろ私の方が少し大きいのですが、
その程度で優位な立場になるなどとは到底思えないのです。
掴みかかろうともしましたが、私が勝つのはどうしても想定できません。
しかし、なにも奇っ怪な様をしてる訳ではないのです。
あえて、「彼」と形容しましょう。
姿形も大きく区別するならば人間なのでしょう。
信じたくはありませんが。
我々で言う、頭部からは漆黒に染まる頭髪の様なものが。
それが無造作に、無秩序に無愛想に生えっぱなしなのです。
表情などはもちろん判別が出来ない程に毛髪が覆っています。
あぁ、おいたわしや。
どうして彼と出会ってしまったのだろう。
ただ勤勉に学び
ただ実直に仕事を全うしていただけの私に
なぜ神はこのような仕打ちを
罰を地獄を与えるのでしょう。
あぁ南無阿弥陀仏。
彼と出会ってしまったら最後
この場を打開しようとどのような言葉を投げかけても
それは空虚、無意味、ただの二酸化炭素に帰すのです。
彼はなぜか私と同じ言語を用います。
申し上げてる通り妖怪ですから、てっきりウーウー唸るのとばかり思ってましたが
とんだお門違い。
むしろ私よりも饒舌に日本語を操るではありませんか。
それがかえって私の背筋の温度を下げるのです。
1言えば3返ってくるとはこの事なんでしょう。
妖怪を前に恐怖で動けない私を嘲笑うかのように、
安心するかの様に、
彼はなぜ自分が妖怪になったのか、
妖怪になってから人間がいかに愚かな生き物なのかという事を話し始めました。
はっきりと
滑舌良く
順序立てて説明をする妖怪の姿は、
このブログを見ている方の様に余裕がある状態であれば滑稽に見えるかもしれません。
ですが当時の私は直立不動で「はい」と答えるしか出来ませんでした。
逃げればたちまち殺されるのが分かってました。
ご自分の不幸話を20分ほど聞いてる時にふと、
「それは災難でしたね。」
なんて口を聞いてしまったのが間違いでした。
「いや、災難とかじゃなくて僕をいじめてたやつらの責任だけどね。」
妖怪は表情こそ判別しづらかったですが、
明らかに不機嫌になり、首をバリバリ掻き始めました。
たちまち真っ赤に腫れ上がり
いつ鮮血が噴き出してもおかしくない程でした。
それ以降は頷く事だけに徹します。
いつご機嫌を損ねて、首を搔きむしり私を襲うかなんて分かりませんでしたから。
そこからは純粋な恐怖が場も身も心も満たしました。
終始目眩に襲われ、彼の話は何も覚えていません。
何時間経ったか、やっと解放された後も、手放しでは喜べませんでした。
妖怪の事ですからいつどこで遭遇してもおかしくないのです。
「また会おう」とだけ言い残され、姿を消しました。
神よ、仏よ、森羅万象よ、
この私をお許し下さい。
皆さんも妖怪には
お気をつけて。
夜道にはお気をつけて。
味付き完熟茹でカバオでした。
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